それは、加奈が6年生にあがったばかりの春の放課後であった。
「加奈ちゃん、またねー」
「うん、バイバーイ」
と、友達と別れたあと、加奈は家への道のりを早歩きで急いだ。
(あぁ、今日はいつもよりちょっときついかも…)
自宅のトイレを思い浮かべ、少し内股になりながら歩いていく。
加奈は今おしっこがしたくてたまらない。それも、かなりせっぱつまった状況なのだ。
そんなにトイレに行きたいのなら、小学校のトイレで済ませば良いように思える。だが、加奈にはそれができない。
加奈は、自宅のトイレ以外で、用が足せないのだ。
「なんとなく」と言ってしまえばそれまでなのだが、生理的な嫌悪感があり、幼少の頃から外のトイレには入れない。
学校では絶対に水を飲まないようにして、1年生の頃からなんとか凌いできた。
だから、おしっこ我慢は慣れっこなのだが、今日はいつもよりちょっと辛かった。
(今日は6時間授業だったし、ホームルームが長引いたからなあ…)
一刻も早く家へたどり着きたいのだが、あまり急ぐと振動でおしっこが噴き出すおそれがある。
できるだけそっと、できるだけ早く歩ける速度を保ちつつ(このあたりも慣れたものである)、
なんとか愛しきトイレのある自宅へとたどり着いた。
しかし、加奈はまだ、これから自分の身に降りかかる災難を知らない…。
「ただいまー」
と、玄関にランドセルを放り投げて、トイレへと駆け込もうとする。
が、台所から母が
「あ、加奈。ちょっと待って」
「なーに、おかあさん。あたし、おしっこ…」
家に着いた加奈は、もうあそこをキュロットの上からぐっと押さえている。
「それがね、うちのトイレ故障中なのよ。今修理頼んでるんだけど」
「えー、うっそー! どれくらい掛かるの?」
「そうね、あと一時間もすれば、修理に来てくれると思うけど」
「い、一時間も!?」
加奈の顔が青ざめる。すぐにでも出てこようと準備を始めていたたおしっこを、足踏みをして何とか押しとどめた。
「そんなに待てないよー。なんとかならないの?」
「なんとかっていわれても、どうしようもないわよ。そこの公園か、近所のコンビニのトイレに行ってきたら?」
「うー…、いい。トイレが直るまでガマンするもん」
と、小さなおしりを左右に揺すりながらいう。
「またそんなこといって…。あんた、3年生の時みたいなことになっても知らないわよ」
「! あのときの話はしないでって、言ってるでしょ!」
と、加奈はランドセルを拾い、自分の部屋へと入っていった。
自室のベッドに腰掛け、おしっこから気を紛らわせようとパラパラとマンガをめくる。
が、足はぶらぶらと落ち着きが無く、内容は全く頭に入ってこない。
チラチラと時計ばかりが気になってしまう。
「あー、まだ10分しか経ってないや…」
次に、ランドセルから算数ドリルをとりだし、机に向かって今日の分の宿題をやってみた。
しかし、ただでさえ苦手な算数の問題が、こんな状況で解けるはずも無い。
頭に浮かぶのはトイレのこと、おしっこのことばかり。
「あ~~~っもう!」
イライラから、解答欄にシャープペンでグシャグシャっと、書き殴ってしまう。
「あと35分…」
ついにじっと座っていることもできなくなり、狭い自室をぐるぐると歩き出す。
誰が見ているわけでもないので、前かがみになり思いっきりあそこを押さえる。
屈伸運動のように、立ったりしゃがんだりを繰り返す。
しかしそんなことをしてごまかしても、たまったおしっこの量が減るわけではない。
何度も、公園やコンビニのトイレで、おしっこをする自分の姿が頭をよぎる。
しかし、それは加奈にはできないことなのだ。
(ああ…こんなにおしっこ我慢したのって、あのとき以来かも…)
あれは3年生の冬の日。
優しかった担任の先生が、風邪で学校を休んだ。
かわりに、同学年のクラスの担任が、かわるがわる加奈のクラスを担当したのだが、
給食の時間、加奈は他クラスの担任から、いつもは絶対に口をつけないスープと牛乳を飲むように強要されたのだ。
その日の午後の授業は、加奈にとって地獄のようであった。
スープと牛乳は着実におしっこへと変わっていき、加奈の膀胱へと溜まっていく。
その日最後の授業終了間際、加奈の小さな膀胱は少しずつ決壊し始めた。
授業終了の礼の時、帰りの会の途中、そして帰りの挨拶の時も、加奈はちょっとずつおしっこでパンツを濡らしていった。
そして、下駄箱で上履きから靴へと履き替えたときだった。
とうとう加奈のおしっこは、あそこをぎゅっと押さえても足をばたつかせても、止まらなくなってしまった。
周りの友達が何事かと見守る中、加奈の意思に反してどんどん溢れ出すおしっこ。
結局加奈がすべてのおしっこをおもらししてしまった時、周りには結構な人だかりができていた。
「2組の上原がおもらししたー!」と叫んで駆け出す男子。
「え、うそー? 3年生にもなって…?」と、信じられないものを見たという感じで呟く女子。
加奈は一刻も早くその場から消え去りたくて、家へと駆け出していった。
あの時は、家でおかあさんに泣きついたんだっけ…。
そして、加奈が自室に戻ってからちょうど50分が過ぎたとき。
「も、もうダメ! あ、あ、出る、おしっこ出ちゃう!」
これまでに無い大きな尿意の波に耐え切れず、とうとう加奈はショーツにシミをつくってしまった。
しかし、少しちびっただけで、なんとかこらえきった。
(あ~、やっちゃった…)
加奈は股間に手をやり、キュロットがぬれていないか確かめる。しかし、被害はショーツだけで済んだようだ。
(よかった、これならなんとかごまかせるかも)
椅子に腰掛け、キュロットを膝まで降ろして、ショーツを確認する。こちらはかなり濡れてしまっている。
加奈はティッシュを取り、ショーツに染み込んだおしっこを少しでも拭おうとした。
(でも、このままじゃ、本当にここでおもらししちゃうよぉ…。修理はまだ来ないの?)
と、そう思ったときだ。
急にさっきよりも大きな「波」が加奈を襲った。
「いやっ! ちょ、ちょっと待ってよ、ああっ!」
『シュー…』というくぐもった音とともに、おしっこが噴き出してしまった。
「ダメ、ダメッ! 止まってぇ!」
ショーツの中に手を入れ、直接あそこをおさえておしっこを押しとどめようとする。
…なんとか止めることができた。が…。
「ど、どうしよう。いやー…」
ショーツはもうビショビショ、椅子に敷いていた空色の座布団まで、かなり青黒く変色していた。
「この座布団、気に入ってたのに…」
その時である。
『ピンポーン』と、玄関のチャイムが鳴り響いた。
加奈にはそれが、天使の鳴らす鐘の音のように聞こえた。
「やっと来た!」
「すみませーん、近藤工事店のものですがー」
「はーい、どうもすみません。こっちなんですけど…」
母の応対する声が聞こえる。
「あー、これですね…では早速始めさせてもらいます」
そんな声を聞きながら、加奈はおしっこで濡れた手をティッシュで拭い、キュロットを穿きなおす。
できればショーツも替えたいのだが、残念ながらこの部屋には着替えは置いてない。
そして、工事の行われているトイレへと向かった。
工事に来たのは、20代前半くらいの若いお兄さんだった。
「あ、あのー…」
「ん? どうしたの?」
「修理、どれくらい掛かりますか?」
おずおずと加奈が尋ねる。
「え? ああ時間ね。そうだねー、これだと大体15分くらいかな。なに、トイレ我慢してるの?」
「は、はい、ちょっとだけ…」
加奈は顔を赤くしながら答える。
しかし。『ちょっと』どころではないのだ。中途半端に出てしまったことで、加奈の体内に残ったおしっこは、
我先にと出口を求め、下腹部で暴れまくっている。ちょっとでも気を許せば、その出口は崩壊してしまうだろう。
あと15分。加奈とおしっこのガマン比べだ。勝てるだろうか。
ともかく、今はトイレを見るだけで、身体がおしっこを出そうと反応してしまう。
それに、この人のいる前では足踏みするわけにも、ましてやあそこを押さえるわけにもいかない。
加奈は、台所の陰へ行き、修理が終わるのを待つことにした。
台所での加奈の動きはせわしなかった。
両手を太股に挟み込んだかと思うとしゃがみこみ、すっくと立ち上がって足踏みをする。その繰り返しだ。
もちろん加奈なりに、修理中のお兄さんに気づかれないよう、見えないところでやっていた。
そんな様子を見ていた母が、修理をしているお兄さんの元へと行き、
「すみません、急いでもらえますか。もうあの子、ガマンできないみたいで…」
「!」
加奈は、顔から火が出そうになった。
「はい、急ピッチですすめてますんで。もう少々おまちください」
台所に戻ってきた母に小声で食って掛かる。
「ちょっとおかあさん! なんであんな恥ずかしいこと言うのよ!」
「だってあんた、もれそう…ていうか、もうちびっちゃってるんでしょ?」
「なっ…!そんな、なんで…」
「においよ。あんた、自分のおしっこのにおい、気づいてないの?
きっとあの工事の人だって気づいてるわよ。それに、台所でバタバタ必死で我慢してるのだって、丸分かりよ」
今度こそ、加奈は本当に顔に火がついたか、と思うほど真っ赤になった。
3年生でおもらしをしたときだって、こんなに恥ずかしくはなかったかもしれない。
その時、トイレのほうから
「おーい。もう終わるから。あと少しだけガマンしてねー!」
と声がした。
加奈の尿意は、本当限界だった。
あそこを押さえた両手を離すことは、もうできない。
このままお兄さんの前に出るのは死ぬほど恥ずかしいが、ここでおもらししてしまったら、
そんな恥ずかしさの比ではあるまい。
意を決して、トイレへと向かっていった。もう内股の前傾姿勢でしか歩けない。
「あと、ここの栓を締めるだけだから。がんばって」
「は、はい…」
と、答えたその時。
今日三度目の決壊が始まってしまった。
(だめーっ!! あと少しなんだから! 出ちゃ、あ、ああっ…)
しかし、おしっこは断続的に少しずつ出始める。まるで、スパナで栓を締めるタイミングに
合わせるかのように、ちょろっ、ちょろっ、と。
両手で押さえたキュロットの股からおしりにかけて、まあるいおしっこのシミが少しずつ広がっていく。
加奈は懸命に食い止めようとするのだが、どうしてもおしっこは止まってくれない。
「よしっと…これで、流れるかな?」
と、工事のお兄さんがレバーをひねった。
『ザアアアアアアアアアーッ』
そのトイレの水流を見たとたん、加奈の緊張の糸はプッツリと切れてしまった。
『シュウウウ~~~~~』
まるで、便器を流れる水流と同調するかのごとく、加奈のおしっこはものすごい勢いで
キュロットのすそから、押さえた指の隙間から、流れ落ちていく。
もう、加奈にはそのおしっこを止める気力は残っていなかった。
呆然と立ち尽くしたまま、まるで他人事のように、自分のおもらしを客観的に見ているだけだった…。
(続く)