香坂秀二君はいつも仏頂面。ひとえだけど切れ長な鋭い目、 
さらっとして少しだけ色を抜いた髪、すらっとしてるのに筋肉質な体格で、 
見た目はなかなかのハンサムといえるだろう。でも、無口で無愛想な性格は 
なんだか近づきがたくて、それほどのファンがいるわけではなかった。 
言えなくても隠れファンはいるのかもしれない。 
私、白崎友里もそんな一人。なんの部活もやってないのに球技大会で 
大活躍した秀二君は、最高に格好よかった。でも、内気な正確の私には、 
怖い感じの秀二君に話しかけることもそうそうできない。 
同じクラスなのに、週番が一緒になったり班が一緒になった時、なんでもない 
事務的な会話をかわすのが精一杯だった。 
そんな私が、秀二君と少しだけ近づけるきっかけになった話。 
そんなにいい話じゃないんだけど。 

 その日、私はなんだかトイレに行きそびれて、4時間目の授業中、 
必死でトイレを我慢してた。終わりの5分くらいになると 
もう本当に漏れそうで、でもそんなぎりぎりの時間にトイレに行きたいって 
言うのもなんだか恥ずかしくて、結局最後まで我慢しなきゃいけなかった。 
 体が震えてきて、私は恥ずかしいのも忘れて両手でぎっちリあそこを 
押さえて、本当に、もうダメかと思った。 
もう少しでも動いただけで漏れちゃいそうなのに、足や腰がガタガタ震えて、 
止められない。やっと先生が授業を終えた時にはパンツがじっとり湿って、 
もしかしたらちょっとだけ漏らしちゃったのかもしれなかった。 
それでもトイレに行かないわけにいかないから、なんとか立ちあがって廊下に 
飛び出して、急いでたから不良っぽい女の先輩たちにぶつかって。 
こんな時なのに、その人達は、ちょっと待てよ、って。 
私はもうほとんどおしっこが漏れそうなのに、その人達はいくら謝っても 
そこを通してくれなかった。私がおしっこ我慢してるのに気付いて、 
いじわるしてたんだと思う。私は涙が出そうで、それよりもっとおしっこが 
漏れそうで、もうどうしようもなくてただうつむいてた。 
その時、私の後ろから「おい」って声が聞こえた。もしかしたら、 
「あの…」だったかもしれないし「あんたら」だったかもしれないけど、 
とにかく私には、普段あまり聞いたことなくても秀二君の声だってすぐわかった。 

 その先輩たちと秀二君は顔見知りだったみたいで、いろいろ話してる内に、 
「これから気をつけろよ」みたいな感じで許してくれた。 
でもその話が少し長すぎて、先輩たちがいなくなったときにはもう限界だった。 
私は、秀二君の前であそこを押さえた恥ずかしい格好のまま動けなくて、 
秀二君の顔も見れないし、逃げ出すこともできなくて、せめて秀二君だけでも 
いなくなってくれたらいいのに、ってずっと心の中で思ってた。 
「おい、大丈夫か」って秀二君が聞いてくれたとき、私は全然大丈夫じゃなくて、 
それでも口はこう答えてた。 
「うん…」 
そのときはもう泣いちゃってたのかもしれない。秀二君が心配そうに 
肩をそっと触ってくれて、私は「ごめんなさい」って言うのが 
やっとだった。パンツの中が少しずつ濡れてきて、それでも私は動けなかった。 
それまではなんとか、ちょっとずつでも止めることができたんだけど、 
おしっこがパンツから漏れ出してくるともうダメだった。 
お願い見ないで見ないでって思いながら、おしっこが太ももを流れてきて、 
とうとうスカートの下の見えるところまで流れてきて、その後はすごい 
勢いで私はおしっこを漏らしちゃった。 

 いっぱい出ちゃったおしっこが廊下で水溜りになって、それでも 
私は動けない。 
その時、秀二君は何も言わないで突然私をおぶってくれようとしたの。 
私はスカートも脚も濡れてて、秀二君の服が汚れちゃうと思ったのに 
無理やり抱えあげられて。秀二君のあったかい背中におぶわれて 
私は保健室へ。「なんだよ。見んなよ」とか言いながら、秀二君はゆっくり 
歩いていって、私を保健室まで届けたらすぐにいなくなった。 
着替えて、濡れた脚を拭いても涙が止まらない。 
保険の先生が「給食は?」とか聞いてきたけど、そんなのもうどうでもよくて、 
私はこのまま世界から消えちゃいたかった。 
保健室のベッドに寝かせてもらって、早退しようとか考えてたら、 
秀二君がやって来た。給食のパンを持って、わたしの大好きなプリンの 
カップをもてあそびながら。 
あまり話はしなかったけど、持ってきてくれたパンもプリンも食べれなかったけど、 
私は秀二君と長い間一緒にいた。5時間目の始まりのチャイムが鳴って、 
秀二君が教室に帰るとき、一言だけ、 
「なんかああいうことあったら俺呼べよ」って。 
あれ以来、べつに何もないんだだけど、私は秀二君に挨拶できるように 
なったんだ。できるだけかわいく笑って、できるだけ背伸びして、 
「おはよう」って。秀二君は相変わらず笑わないけど、 
なんだか口をもごもご動かして、私に答えてくれる。 
それから、あの火のパンツをはいた日は、誰も気付いてないけど 
少しだけ秀二君のそばにいる感じ。